川の記憶
 奥沢2丁目 畔柳 順 一

第23号 2006.5.2

 我が家を出て角を二回曲り坂を下ると、旧九品仏川の緑道に行き当たります。生れた時から、何千回とこの緑道を通っており、家の近所の道と言うとまずこの道が浮びます。

  一番古い記憶では(前後の記憶から推測すると、多分三歳頃)緑道はまだ川として存在していました。確かアヒルが二羽程水浴びをしており飽きずに眺めていた覚えがあります。

 又当時オタマジャクシも生息しており、親に採ってもらい、家の小さな池で小さな蛙になったのを見て感激した事、この後数日は将来動物学者になろうと思いました。又もう少し成長した後、木片を舟に見立て川に流し東工大の辺り迄川沿いを歩いた事、この頃は探検家として激流を下る事を夢見ていました。その子供の頃の記憶の中に、小さな川と私の幼い夢とが重なっていた時もあったのです。

 スポーツに熱中し毎日家の近くを走っていた頃、はるか以前に緑道になっているのに走る前その日のコースを頭の中に描くと、何故か既に無いはずの川沿いを走っているイメージが浮かぶことがありました。

 又学生時代酔って緑道のベンチで眠ってしまった時、目が覚めて川に落ちなかった事にホッとして見まわすと、川が無い事を一瞬不思議に思った事もあります。

 今は毎朝犬の散歩で緑道を通りますが、時にフッと川に沿って歩いている様な錯覚にとらわれます。桜の季節花ビラが川面を流れて行く光影、梅雨時いつもより水量の多くなった流れ、夏の光にギラギラ反射する水面等々、散歩の途中に見えた様な気がする時があります。ただ冷静に思い出すと、後々はゴミが浮かび、時に悪臭のする半ばドブ川の様な流れでしたが、自分の頭の中ではあの川は日々清流に近づいている様です。きっと明日も緑道は私の中で、日々水が澄んで流れ行く川のままだと思われます。