とんぼ釣り
 奥沢5丁目 山崎 忠

第27号 2007.5.6

 我が家の前の通りを北へ自由が丘の方に行くと、呑川(九品仏川)にかかる権現橋にぶつかった。今はその場所は橋も無く暗渠になり、桜並木の遊歩道になっている。大井町線の線路をまたぐと其処は一面の畑で、夏になるとトンボ釣りの場所になった。半袖シャツに帽子をかぶり、近所の友達と胸を躍らせながら坂を下ったものである。

 ギンヤンマ(オス)に朝顔の葉っぱを巻きつけてチャンに見せかけ、木綿糸を長くつけてギンの鼻先でブンブン廻すとガシャガシャと羽のこすれる音がするのだが、ギンは飛び去ってしまう。ギンを捕まえるのはむづかしい。

 ギンヤンマは時々じっとして辺りを窺うような格好をする。その時は威圧感があって普通のとんぼとは思えない。しかしその後はぐるぐると旋回して普通のとんぼに戻ってしまう。ギンよ来いよ、チャンがいるぞー。採った魚に餌はやらない、そう、採ったとんぼは母の言いつけで皆放してやったのだ。でもチャンは勿体なくて一週間ぐらいはとって置いた。

 権現橋の右側の畑から“ノーッ・ノーッ”の声が聞こえてくる。これはギンが興奮した声だ。ギンヤンマのオスは自らの尻尾の先をメスヤンマの頭の後に差し込んで離れないようにする。これでおつながりが出来上がる。ギンを捕まえれば自ずとチャンも捕まえられる道理である。チャンは葱畑で卵を産みつけることがある。チャンス到来 !! ギンとチャンが一緒に産卵する 所を捕まえることができる。私は権現橋のたもとでギン・チャンを捕ったことがあるが、当時とても相場は高いと聞いた。同じとんぼでもトーセミ・オニヤンマ・オハグロ等は駄目だそうだ。

 何はさて置き「とんぼ釣り 今日はどこまで 行ったやら」( 加賀の千代女 )の日々であった。もう70年以上前のことであるが今も鮮明な楽しい思い出である。