第20号 2005.8.12
自由が丘から一歩抜け出して自由通りから緑ヶ丘方面に少し入ると、街並みがとたんに彫りの深い表情になります。年月に磨きぬかれた家々は不思議と温かみを感じさせるリアリティがあり、その時代を知らない世代にも懐かしさを感じさせてしまいます。
ここはまだまだ大正時代や昭和初期の建物が残っているところで、実際に生活していて手入れも行届いています。どの家も物語が浮かんでくるような佇まいで、よそのお宅とは知りながらついつい見とれてしまうこともあります。比較的新しいお家もお庭も個性的で素晴らしく、住んでいる方の趣味の良さが伺われます。
私自身も大正末期に建てられたという家をシルクドレスとオーディオのアトリエショップにさせていただいております。まず鉄の門の前に立って見上げるとオレンジ色の三角形の屋根が印象的で、門を入り5mくらいのアプローチの先にブルーグレーの扉があります。その昔の海軍村を偲ばせる桜と錨のデザインで、その両脇には当時の洋館らしい出窓があります。とても目を引くらしくテレビドラマにもたびたび出演しています。その後アトリエショップの取材をしにきた音楽の友社「ステレオ」誌のカメラマンもとても感激して、目的の新藤ラボ真空管アンプよりも洋間の造作を撮影していました。
その時代を知っているご年配の方々はもちろん若い人たちにも大人気です。南側の窓からは黒井邸のお庭が見え借景を楽しませていただいております。四季折々の花が咲き夏には広葉樹の葉が茂り木漏れ陽となってきらめいています。ここで音楽を聴いていると都内とはおもえない静寂さです。とても心が落ち着くとおっしゃって毎週レコードを聴きにこられるお客様もいらっしゃいます。 単なるはやりではない本物のレトロに出会うことが出来ます。奥沢に散歩にいらしたら是非お立ち寄り下さい。