第11号 2003.3.31
朝、9時。やっと、家族がみんなバタバタっと出かけて行った。きょうもよく晴れて、このシーツを二枚干し終わったら、犬と散歩に行こうかな。ベランダで洗濯物を干していると、どこかで植木屋さんの話し声。ハサミのチョキチョキ。うぐいすのホーホケキョが聞こえる。空気はゆったりとして、あまり動こうとはしない。ずっと遠くで、ヘリコプターの音がしている。空はどこまでも広がっていて、風はかすかな沈丁花の匂いを、どこからか運んでくる。私はいい気分になって、お気に入りのCDをかけ、コーヒーをいれて、もうすっかり犬の散歩のことは忘れてしまっている。娘の食べ残した、パンケーキのかけらを口に放り込み、コーヒーを飲む。さぁて、掃除機でもかけるかぁ、ってな具合で朝の作業は遅々として進まない。私はそれを、この辺りの空気のせいだと思うことにする。CDが一枚を終わる頃、犬の視線を感じ、そうだそうだ、散歩だ。はいはい、今行きますよって。そう思ったとたん、犬はウォウウォウとえらい騒ぎになる。どうやら、犬は人の心が読めるらしい。さて、犬と散歩にでてみると、緑が丘から続く緑道のサクラのつぼみが、きのうよりさらに膨らんでいた。犬も連れていてすごくいいことは、こうしてぼうっとまわりを眺めていても、犬と一緒なら変な人に思われる心配がないということ。そして、ぼうっとしていると、大きなサクラの幹の下の方にたったひとつだけ、ぽっこり花がさいているのを見つけたりする。この日、私は、この緑道沿いに住む、小さなしゅうこちゃんと知り合いになり、一緒にこのサクラの花を見つけた。それを見て、しゅうこちゃんは、ねぇねぇ、こんどね、うちにも赤ちゃんが産まれるんだぁ。と、うれしそうに笑った。