金木犀の香る町
 奥沢2丁目 廣田 美嘉

第3号 2000.12.1

私達家族がこの奥沢に越して参りましたのは、七年前の初夏でした。

 この地に住まいを構えたいと願った理由は「自由が丘」「奥沢」「緑が丘」と三つの駅に囲まれた便利な地でありながら、一本路地に踏み入れると突然目に飛び込んで来る草木達の表情でした。それは決して単調なものではなく、手入れの行き届いた丹精な垣根もあれば、道路を覆い尽くさんばかりの大木ありと、様々な表情で私達を迎えいれてくれました。そして初めての秋、どこからともなく漂う金木犀の甘い香りにも安らぎを感じて居りました。

 この町に移り住んで六年目の夏と今年の春と一匹ずつ、かねてからの夢でもありました犬を飼いました。それ以来、主人と又ある時は子ども達と一緒に、二頭の犬を連れて朝夕の散歩が日課となって居ります。「今日はこの角」「明日はあの路地」と散策を続けて居りますが、未だに新しい「奥沢の顔」との出会いのある日々を楽しませて頂いて居ります。

 間もなく本格的な冬が訪れ、春が来て夏が過ぎ、そして五年後更に十年後と、金木犀の香りが似合うこの町を、愛犬を連れて主人や子ども達と歩き続けて居たいと思って居ります。