おくさわ今と昔『今』

さくら
 奥沢2丁目 白井 克明

第28号 2007.7.26  奥沢2丁目の大井町線踏切(緑が丘1号踏切)を越え北へ坂道を下ったところで出会う区境の遊歩道(九品仏緑道)は、ふだん薄暗いさくら並木だけに花の頃の華やぎはまた格別です。  父の最後のお花見となったのはこの場所でした。  我が家から300m余、老い呆けた父が杖を引き引きようやく歩み着ける限度が此処までだったのです。  少し前、開花宣言を待ち焦がれながら入院した母のことは伏せてありましたが、それとなく察してガックリ気力を萎えさせた父を、何とか騙し励まして元気を取り戻させたいと思いむりやり此処まで連れ出したのでした。  しかし30分も費やしてやっと辿り着いた父はもうすっかり疲れ果て、並木道を逍遥するどころかベンチにへたり込んでただ喘ぐばかり、昔だったら俳句の二つ三つもひねって得意顔をするところでしょうに、今は半分目を閉じた青白い顔をあお向けて、その額や頬に散りかかる…

我が家の桜
 奥沢2丁目 桜井 勝彦

第28号 2007.7.26  私の家には大きな桜の木があります。春になれば、その枝に支えきれないくらいにたくさんの美しい花を咲かせます。  9年前、祖父の代から住んでいた隅田川沿いの土地が東京都の都市計画の予定地となり、引越しを余儀なくされました。それから約2年間の不動産探しを経て、この奥沢に住居を構えるに至りました。土地を探すのに2年もの時間がかかった最大の理由は「ここだ!!」と決心させる“決めて”のようなものに遇わなかったからだと思います。そして業者からこの奥沢の土地を紹介された時に、敷地の中でたくさんの緑の葉を茂らせている桜の木を見て、私は直感的にその“決めて”を得る事が出来ました。  以来、此処に暮らし始めてから6年、毎年美しい花を咲かせる我が家の桜の他にもこの奥沢には多くの楽しい緑があることを知りました。買物をする時に通る緑道には春に美しい花が咲き競う桜並木があり、ご近所の庭先…

季節を感じる街並み
 奥沢2丁目 牧 範子

第29号 2007.10.30  金木犀の香りが風と共に漂い秋を感じるこの頃です。私は結婚後間もなく主人に伴い海外生活を送り、その後主人の実家がある奥沢に住み三年が経ちました。長女が4ヵ月の頃からここ奥沢に住み、娘と共に奥沢の街並みを眺めて参りました。暮らし始めて感じたことは自由が丘に近い場所でありながら緑豊かで静かな環境であるということです。娘をベビーカーに乗せていた頃は毎日のように散歩をしておりました。特に私は地元ではないので道を覚える為にも毎日違う道を歩いていました。どの道を歩いていても可愛い草花や木々の緑を見ることができ、心が和み季節を目と鼻で楽しむことができます。また家の周りを綺麗にされ皆様がこの街並みを守っていらっしゃる心が伝わってきます。  住み始めた当時4ヵ月だった娘も3歳になり今は幼稚園に通っております。娘と歩きながらご近所から覗く草花や木々を眺め楽しませて頂いております…

奥沢「植え溜め」あれこれ
 奥沢5丁目 堂山 幸男

第32号 2008.8.1  昭和50年初めに奥澤に家を建ててもう30年をこえた。海の公園造りの関係で造園の仲間がまわりに結構いる。最初家の回りの生垣を何にするかで『専門家』にご意見を拝聴したが、十人十色。結論が出ないことがわかってエイヤアと自分で選んで植え込みを始めた。その結果を報告したつもりがたった一言、そういうのを『植え溜め』というんだよと切り捨てられた。その『植え溜め』顛末を報告する。  淡いピンクと白とシボリの3種咲き分けの桃『源平』、最初に南側に植えたのがこれ春三月の声を聞くと色づきほころび、我が家の春到来のトップバッターとなった。八重は実がならないはずなのに可愛い実があとあとまで楽しませてくれていた。味も酸味があって懐かしい桃のかおりがした。少し遅れて杏が明るく花開く。家の前は八幡小学校の通学路になっているが、前を通るお母さんが子供に『サクラの花綺麗ね』と教えているので家の中…