第14号 2004.1.1 私は奥沢で生まれ育ち、今も同じ場所に暮らしています。 私の子供時代―昭和30年代初めの奥沢には、田園の雰囲気が色濃く残っていました。緑の垣根に囲まれた家々は、幅広の窓や縁側、さりげなく手入れされた庭を持ち、街全体に、節度ある解放感と穏やかな調和がありました。庭先に鶏舎を造っているお宅も多く、コッコッコッというのどかな鳴き声が、いつもどこからか聞こえていました。道路は未舗装で、大井町線の線路脇の土手には、春になると土筆が顔をだしました。木造の家並みや連なる垣根、土の道路に落ちる光や影は、コンクリートやアスファルトに射す今のそれよりも、ずっと、やわらかかったような気がします。 特に忘れられないのは、隣家の石井家で味わった「焼きジャガイモ」です。 旧家である石井家には、二十数年前まで、母屋に隣接した広い畑がありました。と…